シルバーメタリックな恋人 2

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「あ・・・歩いた・・・」
酔っぱらいが呟いた。
ほんとに人形だとでも思っていたみたいに。

 

銀の背が丸まった。
女の子のそばにしゃがんでポケットから花を出すのが見えたけど・・・
彼女の顔は恐怖に引きつり、もっともっと泣き出した。

そりゃそうだ。


そこで彼はなんと、私を振り返った。
私をじっと見て、目だけでたくさんのことを訴えていた。
私は胸がギュッとなってそこへ駆け寄って、
ためらわずに女の子を抱き上げた。


「わぁ~~ん!」
女の子は、泣きながらも私の首にしっかりとしがみついた。

銀色の彼は、困ったようなホッとしたような顔で・・・


笑った。

笑ったのだ。


歯を見せて笑った。

できすぎのメタリックなハンサムが無防備に崩れた一瞬だった。

 

彼は私に煉瓦のステージを指さした。
その時にはもう表情はなく、動きはマリオネットに戻ったけれど。

「へ?」

女の子を抱いたままの私をステージに引き上げると、
その小さなスペースで私の腰に腕をまわして支えた。

女の子は泣き続けている。

彼は私をじっと見て、“しゃべって”というジェスチャーをした。
その指の動きが優雅で、ひきこまれるように頷く私。


私の肩口に顔をくっつけてる彼女に聞いた。

「いっしょにママを探そうね。
お名前を教えて。」

「ふぇ・・うぇ・・もも・・・
のむらももこちゃん・・です!・・うぁ~~ん・・」

「ももこちゃん。かわいいお名前ね。
ママはね、今いっしょうけんめいももこちゃんのこと探してるよ。
だからママに聞こえるように大きな声で呼んであげるからね。
だいじょうぶ。ママ来てくれるよ。」

顔をくっつけたままの彼女が頷いて、
私の鎖骨のあたりがグリグリと擦れた。


すぐそばにある銀色の頬も、コクリコクリと動く。
マリオネット仕様で。

でも、それと同時にギュッと力がこもった腕だけは、
リアルに人のぬくもりを伝えて私の腰を引き寄せた。

 

「のむらももこちゃんのママァ~~!
ももこちゃんはここにいま~す。
ママを探しています~!」


私が叫ぶのに合わせて、
もう一方の銀色の腕が人の流れに向かって大きく振られた。

ことのなりゆきを見守るようにして、
だんだんと人だかりが大きくなっていく。


何度も叫んだ。
ボリュームが足りないような気がしてさらに大声を出すと、
それに応えるようにももこちゃんがさらにしがみついた。


どのくらいたったろう。
汗がにじんできた頃、
OLらしい若い女性の二人連れが駆け寄ってきた。


「あの・・・さっきのお店で女の子がいなくなったって、
お母さんがすごく慌ててたんです。
たぶん、この子じゃないかな。
お店の中をみんなで探してて・・・
呼んできます。待っててね!」

こちらが返事をする間もなく一人が走り去った。


その場の人々の中にざわめきが起こり、期待感が広がるのがわかった。

ももこちゃんも事態を感じたのだろう、
泣くのをやめてひっくひっくとしゃくり上げながらその方向を見ている。
私の肩に頬をギュッとくっつけたまま。

彼女の背中をとんとんと撫でるようにたたく。
腰には依然として温かな彼の左腕を感じて、
この場にこうして三人でいることの不思議を思った。

名前も知り合わない二人が、さっきみつけたばかりの小さな一人を抱きしめて、
三人はこんなにも寄り添っている。
こんな場所で、みんなの視線に晒されながら。

いきなり訪れた非日常をじっくり味わってる場合じゃないけれど、
こういうシチュエーションって、ほんとにほんとに突然降ってくるんだな。


ほら、さっきの酔っぱらいだってまだそこにいるじゃない。
いっぺんに酔いが冷めちゃった顔で、
真剣にそっちの方向をみつめてる。

 

ほんと、不思議。

 

やがて、さっきの女性の先導で走ってくる人が見えた。
銀色の彼は伸び上がってさらに大きく手を振り、
それを見つけたその人の顔に光が射した。

「ももちゃ~~ん!ももちゃ~~ん!」


到着したママの胸にももこちゃんが飛び込んで、
ギャラリーは歓声と拍手に包まれた。

安心してわんわん泣くももこちゃんを抱えながら何度も礼を言うママだった。

私はニコニコ顔で
「よかったです。ももこちゃんよかったね。」と言い、
銀色の彼は両手で胸を押さえて頷いた。
ここに及んでも、やっぱりマリオネット仕様で。


親子を見送ったあと、すぐに立ち去ろうとしないギャラリーの前で、
銀色の彼は私の手を取り跪いて、片方の手を胸に当てた。
そしてあらためてギャラリーに向かって、私へのねぎらいの拍手を求めた。
もちろん無言のまま。

歓声と拍手に包まれてなんだか面映ゆく、ぺこりとお辞儀しただけだった。
ステージを降りると、握手を求める人やハグしてくれる人までいて、
その場に生まれた不思議な連帯感が、花冷えの夜を暖かく満たした。


一時の盛り上がりが引いていくと、
なんとなくそのまま留まるのが恥ずかしくなるものだ。
「じゃあ、また来週にね!」と、
もうすでに遠くを見たまま動かなくなった彼に向かって、元気に呼びかけた。

さっきの酔っぱらいも、もういなかった。

 

名残惜しさを振り切って、走って帰ろう。


また来週会えるんだもの。

 

 


ーーーーーーー

 

 

 

1週間が待ち遠しかった。
週末に残業なんてしないと決めると、それまでの毎日を頑張ることができた。
あの時間を思い出すと自然に顔がほころび、ハッピーな気分になる。


だけど・・・
こんなかたちで訪れたハッピーは、
その場で終わるからこそ美しいのだということを、私は忘れていた。
それが物語のルールだということを。


その日、その場所はいつもとまったく様子を変えていた。


人だかりは膨れあがって大変なことになり、
テレビの中継車まで来ている。

とても近づけない。
テレビで見覚えがあるきれいなお姉さんが、彼にマイクを向けている。
もちろん彼は、何も答えないけど。


コアなギャラリーの外側にいて、
私はひとり苦笑いだった。

 

誰ともなく聞こえてくる話だと、
先週の様子がウェブ上で話題になっていたらしい。
携帯で撮った動画も流れたようだ。
それなら1週間あればこんな騒ぎになるには十分だ。


なんとなく勝手に親しくなった気分でいた。
自分は第一回目からここにいる特別な存在みたいに。


5分たったのか、マリオネットのように動く彼がこっちを向いた。
その時、視線が合ったような気がした。

「ん?・・・」
まだ私を見ているような気がした。


まだ。まだ。まだ・・・


ずっと見つめ合っていた。
彼も私も視線をはずさなかった。

そんな気がした。

でも・・・
遠いからよくわからない。


5分もの間、彼は私だけを見ていた?
そう思いたいけど、やっぱりわからない。

そしてその次に彼がポーズを変えた後は、
もう二度と視線が交わることはなかった。


ギャラリーは増え続け、そのギャラリーを撮影するカメラは居座り
私はその場をあとにした。


寂しかった。


角を曲がる時に振り返ったけれど、
彼はまったく違うほうを向いていた。

 

あれからもっと人が増えて、結局警察まで出る羽目になったらしい。
ことの顛末はウェブ上ですぐに知ることができた。
投稿の動画もテレビの映像も全部チェックした。

ももこちゃんのママ探しの投稿動画は、
私の顔にモザイクがかかっていて不気味だった。

 

『謎の超美形パフォーマー、
    あまりの人気に警察騒ぎ』

『OLたちの王子様?
   この世のものとは思えない銀色の美しいオブジェ』
   


彼の正体があれこれと話題にされたが、
それを知る人は誰もいなかった。

そして、私がいちばん恐れていた事態になった。
その翌週から、彼はそこに現れなくなったのだ。


もしかしたらと不安はあったけど、でもいざ本当にそうなると、
私は途方に暮れてしまった。


だって、私は彼に関して何ひとつ知らないのだから。

 

   “私、あなたの名前もほんとの顔も、声も・・・
    なんにも知らないね。

    手袋を脱いだらどんな手だったの?
    ほんとの髪の色は?

    あ、国籍だって・・・知らないね。
    ふふ・・・”

 


母の時代の恋だって、もう少しは情報を得ることができただろうに。

恋?

そうだ。恋。

私、恋をしていたのにな。

 

 

 

6 Comments

  1. rzちゃん
    >なんも知らん恋
    これってドラマの材料として超ポピュラーですよね。おほほ。
    このあとも大好物状態のはこびになるよう頑張ります!

  2. 第2話、ありがとうございます。
    ももこちゃん騒動で、すっかり人気者になってしまった彼を、少し離れた所からしか見ることが出来なかったんですね。
    そして彼が彼女を見つけて、しっかり目が合ったままの状態で、何を訴えていたのでしょう。
    自分が望まない状況に「助けて~」って心の中で叫んでいたかも。
    こんな時、「マリオネット仕様」ではどうしようも出来ないですね。
    また次回を楽しみにしています。

  3. yusaiさん
    コメントありがとです!!
    >ももこちゃん騒動で、すっかり人気者になってしまった彼を、少し離れた所からしか見ることが出来なかったんですね。
    はじめは2人きりだったのにね、だんだん距離が遠くなってきてしまいましたが、
    決定的ですね、これは。
    >自分が望まない状況に「助けて~」って心の中で叫んでいたかも。
    こんな時、「マリオネット仕様」ではどうしようも出来ないですね。
    ほんとにねえ~、黙ったまま目だけで伝えられることって限界あるなあと、彼も思いながらじりじりしていたかもしれませんね。
    ふたりともどうしようもないですね。
    >また次回を楽しみにしています。
    ありがとうございます!
    9日にUPします♪♪

  4. 素顔もわからない、声もわからない、
    そして、全身シルバーメタリック
    そして、そして、美しい身のこなし~
    この彼にすっかり嵌ってます♪
    次も楽しみにしてます*^^*

  5. れいもんさん
    コメントくださってありがとうございます!!
    >素顔もわからない、声もわからない、
    そして、全身シルバーメタリック
    そして、そして、美しい身のこなし~
    この彼にすっかり嵌ってます♪
    はまってもらえてうれしっ♪
    美しい身のこなし・・・・
    イメージふくらみすぎて大変です(^^)
    ついに3で声がわかっちゃいますが、
    この先もよろしく(*^_^*)

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