シルバーメタリックな恋人 1

silvermetaricup3.jpg

 

私には、週に一度の小さな楽しみがある。
   
     ーーー見るだけの楽しみ

 


今日は、欠員補充で参加した合コンの帰りだった。
かわいい唯一の部下に泣きつかれたのでなければ、
あんな場所には絶対に行かない私なのに。

魔が差したな・・・

最年長だろうと予想はしていたけど、
最初から男たちに「お姉さん・・」って呼びかけられたりすると、
もうすっかりしらけてしまう。

「みんな、このあとも楽しくやんなさい」なんて言って、
二次会費用をカンパして出てきちゃった。
私ってば、部長とおんなじ。

どんなに泣きつかれても、もう二度と引き受けまい。
誓いをたてながら急ぐ。
あの場所に。


久しぶりだな。
いるかなあ。


「いた。」


ちゃんと、この夜もいた。
街灯の下に光を反射して立つ、全身銀色の男。。

顔も首も、出ている肌は全て銀色だ。
手には銀の手袋。
そして髪もスーツもシルクハットも、ステッキも靴も、
みんなみんな銀色。

夜の街に佇む姿は、あまりにメタリックでまぶしかった。
さらに彼は『やっぱり作りもの?』と問いたくなるほど、
できすぎのハンサムだった。
それはほんとにもう、ちょっと絶句しちゃうくらいに。

 

彼はだいたい5分おきくらいにポーズを変える。
糸で操られるマリオネットの動きで。

でもたまに、イレギュラーで動く時がある。
それは、小さな子どもが通りがかり、立ち止まって見上げた時。

スーツのポケットから小さな花を出して手渡すのだ。
いかにも手品っぽく大げさに。
子どもたちはとても驚いたあと、大はしゃぎするか泣き出すか、どっちかだ。

あとの時間はただじっと、銀色の像になる。

唯一動くのは、まぶた。
じっと見ていると、ついつい自分のまばたきが、
彼のそれに呼応するのがおかしかった。

 

 


初めて出会ったのは寒い季節だった。


友だち以上恋人未満で過ごしてきた同期の男をつっついて、
今年こそイブを二人でと決めいていた。

そしたらなんと、私の部署の後輩と婚約してしまったのだ。
作戦を開始しようとした数日前に。

こんなことがほんとにあるのだ。
きつねにつままれた気分だった。
私だけの思いこみだったのだと納得できるまでには、少し時間がかかった。


お祝いを兼ねた飲み会は、
いたたまれない気持ちを抑えて一次会をなんとかやり過ごした。
すぐに帰ろうとしたのに、
あろうことかその男が「お前も絶対来いよ~!」と腕をつかんで離さない。
あぁ、ほんとに私の勘違いだったんだ。

告白しないでよかったと心から安堵した。
でも、そんな自分があまりにもバカらしくて笑えそうで、
やっぱり笑えなくて涙をこらえていた。

ワイン1杯でやっと抜け出して、
とてつもない疲労感と一緒にぼーっと歩いていたら、
ぴかぴかに光る像が目に入った。

“こんなところにこんなの建ってたっけなぁ~。
足場悪そう。誰が置いたの?”

なんて思っていたら、その像がいきなり動いたのだ。
マリオネットのように。


「うわぁ~~~!」

「・・・・・」

「あ・・あなた、にんげん?
あは、あは・・・あはははは~~~!
びっくりしたぁ~~。」

「・・・・・」


酔いも手伝って、自分でも驚くほどの音量で大笑いしたら、
なんだかちょっと気分がよくなった。
さっきまであんなに真っ暗闇だったのに。


彼のステージは、歩道から50センチ高い植え込み。
スポットライトのように街灯があたっている。
煉瓦の縁石の上の小さなスペースに細長いシルエットが佇んで、
ピッタリなような場違いのような。


私はすぐに立ち去る気になれず、
続きの縁石に浅く腰掛けてストールを巻き直した。


「先週いなかったよね。
今日が初日?
こんな寒い季節から始めるなんて、エライ!」


私はほんとに酔っていたのだと思う。


「ねぇ、もしかしてあなた、月の精?
今日は月が出てないなと思ったら、
こんなところに舞い降りていたのね。」

「・・・・・」


当然だけど、答えはない。


「ねぇ、そこに立つと何が見えるの?」

「・・・・」

「今年一年も頑張って働いて、
正月はゆっくりするぞぉ~~って思ってるサラリーマンの、
ちょっと薄くなった頭頂部?」

「・・・・」

「あ、今ちょっと笑ったでしょ。」

「・・・・」


相当うっとおしいね、私。

よかったね。この手のパフォーマンスだと、
こんな女に絡まれても相手しなくていい。


「それともぉ~
今年のイブこそ彼といっしょにって、
勝負かけてる女の子の・・・
テカッた鼻筋?」

「・・・・」

「ねぇ。」

「・・・・・」

「失恋・・・したことある?」

「・・・・・」

「そんなこと、内緒よね。」

「・・・・」

「私もよ。」

 

この日終わった私のささやかな職場恋愛。
いや、恋愛じゃなくて勘違い。
なんだか、明日から切り替えられそうな気がしてきた。


「今日会えて嬉しかった。
つきあってくれてありがとうね。
なんか、元気出ちゃった。
来週もここにいる?」


ふと彼が動いた。


「わぁ!」


胸のポケットから花を出し、膝をついて恭しく手渡してくれた。

その一瞬近づいた顔は、
口角がピュッと上がって、そして目が三日月になった。

一瞬だった。


「あ・・・ありがと・・・」

彼はまた元に戻った。

 

帰り道、電車に乗っている間も、
そのいかにも手品っぽい花を大事に胸に抱いていた。
駅からアパートに続く道も。

帰りつくと、それをどんな器に挿そうかと小さな部屋をウロウロ歩き回った。
浅いグラスをみつけて、やっとテーブルの真ん中に納めてホッとした。

場違いなカラフルさと安っぽさで、部屋のシックな統一を乱す一輪の花。
それが楽しくて一人で笑いがこぼれる。

もし彼がピエロの格好をしていたなら、
間違いなく私は一緒に踊っていただろう。
夜通し踊ったっていい。
明け方に彼の頬にキスだってしたかもしれない。

でも、シルクハットのハンサムな王子様だもの、
いただいたブーケを大事に抱いて、しずしずと家路についたのだ。


目を閉じると世界が銀色に染まり、
失恋したはずの男の顔を、どうしても思い出せずに眠りについた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

それからの数ヶ月、毎週とはいかなかったが、
そこに足を運ぶのが楽しみになっていた。

5分おきのポーズの切り替えを2回見て、
子どもが通りかかって花をもらうのを1回見る。
それくらいの短い時間だったけど。

それでも会えると「今週も会えた」とホッとして、
何も答えない彼に一方的に短い話をして帰った。


「メリークリスマス! これプレゼント!」

中身は使い捨てカイロ、
コアラのイラストの巾着袋付でクリスマス限定プレゼント仕様なのだ。

「帰って中身開けたら、絶対ガハハァ~~ッて笑ってよね。わかった?!」
そう言って足元に置いて帰った。
田舎のおかあちゃんみたいでいかがなものかと思ったが、
この寒さの中で、あの軽装が心配でならなかったのだからしょうがない。

「あ、そうそう、あなたやっぱり月の精でしょ。
今日も月、出てないわ。
あんまり遊びに来てちゃだめよ。
でも・・・
とりあえず、来週もいる?」

返事がないけど、きっといると思った。


次の週、
「今日も寒いね!」というと、
お腹をそっと押さえて目を閉じてうっとりした表情。

「ん? わぁ、あったかいってこと?
使ってくれてるの?」

彼はゆっくりと頷いた。

「ん、そりゃよかった!」

胸がじ~んとした。

 


バレンタインの季節になり、小さなチョコを持って行くと、
すでに足元にたくさんの包みが積まれていた。

「わぁ・・」

この頃になるとファンが増え、
ゆるやかだけど歩道に人だかりができるようになっていた。
携帯で写真をとったり、隣に立って記念撮影をする若い女の子も出てきた。

 

「人気者になったんだね。」

「・・・・」

「よかったね。」

「・・・・」

それだけ言ってチョコを置かずに帰ってきてしまった。
よくよく考えると、彼以外は全部義理チョコだったのに。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

行くたびに彼のギャラリーは増えて、
子どもから私の母親の年代まで、目がキラキラの女性がいっぱいだ。

そして、なんとなく寂しさを感じ始めた花見の季節。
その夜は、遠くからでもいつもと違う気配を感じ取れた。
なかなか強力な酔っぱらいが絡んでいたのだ。

このあたりはあまりそういう人は通らないのに、
花見の流れだろうか。


「なぁ、にいちゃん・・・」


やばいな。


「目立つねぇ~~。ギンギラギンだね。
こんなことして、ずいぶんヒマなのかなぁ~~?
俺たちはさぁ、毎日毎日大変なんだよぉ~。」


「・・・・・」


こういう時、絶対に動かないんだ。
何を言われても、まばたき以外は指の先まで動かない。


「俺が昼間得意先に頭下げてる間、にいちゃんは何してるの?
おぉ~い、君は何やってんの~?
もしかしてぇ~、こんな所に立ってるだけで、
お金もらえたりなんかするわけ?」


「・・・・・」


やっと週末を迎えた酔っぱらいのセリフにも、
ふと同情しそうになる。
それはやっぱり私も、こんなサラリーマンの一人だからだ。

でもね、これはやっちゃいけないことだよと言いたい。
これもひとつの表現活動で・・・なんて言っても、
そんなところに彼の創造力は及ばないのだ。
伝わらなくてもしかたないよな。


「おい・・・こらぁ・・・無視すんなぁ~。
このヤロ、このヤロウ・・こちょこちょするぞ・・・」

悪い人ではなさそうだと油断していたら、
彼の腰のあたりをくすぐろうとしてるじゃないか。
私は思わず駆け寄った。

 

男の手が彼のスーツにかかり、
私の手がその男の腕に触れた瞬間だった。


「うわぁ~~~ん!ママァ~~~!!ママァ~~~!!!」


すぐそばでいきなり小さな女の子の泣き声がした。


「え?・・・」


銀色の彼と酔っぱらいと私。
その超接近の三人の輪から主役が消えた。


「ん?・・・」


銀色の彼は、パタッと縁石を降りた。
そして、女の子のところへスタスタと歩いていった。

 

 

4 Comments

  1. わぁ! rzちゃん、どもども♪
    読んでくれてありがとです。
    すごいこと言ってくれちゃってどもども(^^;)
    ピシピシッ!!
      ・・・・って、なにが?・・・

  2. 素敵なお話が始まりましたね。
    彼女が少し酔っ払っていて、なかなかうっとおしく絡んでくるから、銀色の彼も、マリオネットのパフォーマンスが大変だったでしょうね。
    サラリーマンのちょっと薄くなった頭頂部や、女の子のテカった鼻筋・・・これは笑える!!
    月の精・・・
    口角が上がって、眼が三日月!!
    なかなかかっこいい!!
    彼のお顔で見たいな~(^^)/

  3. yuusaiさん
    コメントありがと~ございます!
    >彼女が少し酔っ払っていて、なかなかうっとおしく絡んでくるから、銀色の彼も、マリオネットのパフォーマンスが大変だったでしょうね。
    やぁ~ほんとにこの手の客はうっとおしいでしょうねぇ~。
    でも、知らん顔できるしよかったです(*^m^*)
    >サラリーマンのちょっと薄くなった頭頂部や、女の子のテカった鼻筋・・・これは笑える!!
    笑ってもらえて嬉しい(笑)
    上から見ると、やっぱこれだ♪
    >月の精・・・
    口角が上がって、眼が三日月!!
    なかなかかっこいい!!
    彼のお顔で見たいな~(^^)/
    はい!
    全身銀色でね♪ おほほ(^-^)

Leave a Reply

Your email address will not be published.


*